不貞行為の相手方に対する離婚慰謝料請求

不貞行為に基づく慰謝料請求

不貞行為によって夫婦が離婚するに至った場合、不貞行為をした一方配偶者が損害賠償責任を負うことは勿論ですが、不貞行為の相手方も、他方配偶者から慰謝料請求をされることが多いと思われます。

不貞行為の相手方に対する慰謝料請求は、民法709条(不法行為)に基づく慰謝料請求と考えられています。

しかし、夫婦が離婚する場合の慰謝料について言うと、実は二種類の慰謝料が含まれていると考えられています。

二つの「離婚慰謝料」

一つは、「離婚原因慰謝料」、もう一つは「離婚自体慰謝料」と呼ばれます。

「離婚原因慰謝料」とは、離婚の原因になった行為によって他方配偶者が被った精神的損害を指すもので、不貞行為について言えば、不貞行為そのものによって他方配偶者が受けた精神的損害ということになります。

これに対して、「離婚自体慰謝料」とは、離婚の原因となった行為とは別に、離婚をせざるを得なかったこと(配偶者としての地位を失うこと)による精神的損害を慰謝するものと考えられています。

不貞行為の相手方に対して請求できる「離婚慰謝料」とは

上記の区別を前提とすると、「離婚自体慰謝料」は、まさに不貞行為そのものの責任を問うものであり、不貞行為の相手方が一方配偶者と連帯して他方配偶者に対して負うべき損害賠償債務ということができます。

一方で、「離婚自体慰謝料」は、不貞行為の相手方とは直接関係のない慰謝料であり、不貞行為の相手方に「離婚自体慰謝料」を請求することはできない、という結論が導かれます。

なぜなら、「離婚をするかどうか」という選択は、あくまで夫婦間の意思決定に委ねられているものであり、不貞行為の相手方はその選択に関与することはできないからです。

最近の最高裁判例でも、「夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、(中略)不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとしても、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはない」という判断がされています(最高裁判所平成31年2月19日判決、判タ1461号28頁)。

では、不貞行為によって夫婦が離婚に至った場合、不貞行為の相手方には「離婚させられた」こと自体の慰謝料は全く請求できないのでしょうか。

結論としては、そのようなことはありません。

上記の区別は、あくまで理論的な区別にすぎず、実際には、不貞行為の相手方に対する不法行為責任の判断において、「不貞行為によって夫婦が離婚を余儀なくされたこと」という結果も十分に考慮され、慰謝料の金額に反映(増額)されていることがほとんどです。不貞行為が離婚を招いた以上、不貞行為そのものが不法行為として非常に悪質であり、他方配偶者に対し大きな精神的損害を与えた、と評価されるわけです。

したがって、上記の区別が結論を左右するケースは、実際はあまりないと言って良いでしょう。上記の最高裁判例も、不法行為の消滅時効(3年)を過ぎた後に慰謝料請求をしている事例であり、少し特殊な事例であったと言えます。