DVが認められる配偶者との間で協議離婚を成立させた事例

1 事案の概要

配偶者(夫)のDVや暴言に耐えられず、子どもと一緒に自宅から逃げてきた女性依頼者の方からの相談でした。

相手方には転居先を知られたくなく、今後、電話やメール、職場への連絡などを含め、一切の連絡を取りたくないとのご希望でした。

子どもの職場にも相手方からの連絡が続いており、子どもも仕事へ行きづらい状況になっていました。警察にも相談したものの、あまり真剣に取り合ってもらえない状況だったようです。

2 当事務所の対応

まず、相手方に対して郵便による受任通知の送付に加え、緊急を要する事案だったことから、直ちに電話による介入連絡をしました。そして、今後の夫婦間のやりとりは全て弁護士を通してもらいたいこと、また子どもやその職場に対する連絡も控えてもらいたいことを要請しました。相手方に対しては、子どもの職場に連絡されてしまうと子どもが仕事に行きにくくなることなどを丁寧に説明し、子どものためにそのような行動は慎んでもらうことを納得してもらいました。

その後の話し合いの中で、相手方も離婚を受け入れる旨の発言をしていたことから、すぐに離婚届を郵送し、署名押印を求めることにしました。そして、実際に数日中に記入済みの離婚届を返送してもらうことができ、離婚届を提出して協議離婚を成立させることができました。

残るは今後の接触に関する合意形成が課題となりましたが、ひとまず離婚が成立し、私物の受渡しの流れについても概ね整理ができたことから、双方とも落ち着いた対応が期待できる状況になっていました。

そこで、依頼者と相談の上、下手に接触禁止を求める合意書を作成するよりは、現在の穏和な雰囲気のまま事件を終結させることが望ましいと判断し、私物の受渡しに関する合意書のみを作成し、無事解決となりました。

3 ポイント

DVの問題を含む離婚については、当事者間での離婚協議を冷静に進めることは困難であり、弁護士などの第三者の関与が必要不可欠な事例と言えます。さらに、DVの有無や程度について当事者の言い分が食い違う場合も多く、一般的な事件と比べて当事者間の感情的な融和が難しい傾向にあります。

本件では、依頼者がDVに基づく慰謝料請求を希望していなかったため、如何に当事者間の感情的対立を鎮めながら離婚成立に導くかが重要と考えられる事案でした。このようなケースでは、相手方にDVを認めさせたり、DVを非難するようなことはせず、離婚の早期成立と、財産分与や私物の授受に関する交渉を淡々と進めることで、「離婚に関する合意の成立」だけでなく、「相手方の敵対的意識を依頼者から逸らす」というゴールを同時に達成していくことが望ましいといえます。