婚姻費用や養育費の支払合意の実効性

婚姻費用や養育費の支払合意

婚姻費用や養育費の取り決めをする場合、多くは次のような方法で行われます。

① 当事者間の合意で取り決める場合(婚姻費用、養育費)
② 当事者間の合意をもとに、公正証書を作って取り決める場合(婚姻費用、養育費)
③ 家庭裁判所の調停や審判で取り決める場合(婚姻費用、養育費)
④ 離婚訴訟の中で取り決める場合(養育費)

上記のうち、②③④の方法による場合は、判決又はそれに準じた効力のある方法になるため、後々仮に婚姻費用や養育費の支払いが滞った場合には、すぐに債務名義に基づく強制執行(預貯金や給与の差押えなど)を行うことが可能です。

一方、①当事者間の合意で取り決めた場合(②の公正証書までは作成していない場合)には、婚姻費用や養育費の支払いが遅滞した場合に、直ちに強制執行に移ることはできません。

この場合、どのような方法で強制執行を実現し、支払合意を実効性あるものにしていくことができるのかが問題となります。

家庭裁判所での調停審判か、地方(簡易)裁判所での訴訟か

1 家庭裁判所の調停審判を利用する

この点については、主に2つの方法が考えられます。

一つは、家庭裁判所に婚姻費用又は養育費の支払請求調停を申し立てる方法です。既に当事者間で合意が整っている場合にも、家庭裁判所の調停(又は審判)を利用することはできますし、調停や審判が成立すれば、調停又は審判を債務名義として強制執行を行うことができます。

しかし、いったん婚姻費用や養育費を苦労して決めたのに、それを払わない相手と再び調停で話し合いをすることは、なかなか気が進むものではありませんね。相手によっては、「相場より高い金額で合意させられた」「一旦は了承したけれど、やっぱりこんな金額は払えない」「収入が下がったので減額してほしい」などと言われ、婚姻費用や養育費の減額を要求されることもあるでしょう。

特に、当事者間の合意で、相場より高めの金額を設定していた場合には、家庭裁判所での調停は極力避けたいものです。家庭裁判所では、原則として裁判所が作成した「養育費・婚姻費用算定表」(以下、「算定表」)に基づいて金額を定めることが多く、算定表に則った金額での合意を勧められることもよくあるからです。相手が一旦は合意した金額を、後々になって正々堂々と下げられてしまうのは納得がいきませんね。

2 地方(簡易)裁判所で訴訟提起する

そのような場合に、2つ目の方法、地方(簡易)裁判所で訴訟提起をすることが有用な場合があります。婚姻費用又は養育費の支払合意に基づき、その支払いを求める婚姻費用(養育費)支払請求訴訟を提起する方法です。

当事者間の支払合意は、いわば金銭支払を内容とする契約と同じですから、例えば貸金返還請求訴訟と同じように、合意(契約)に基づいた債務の履行を求め、地方裁判所で訴えを起こすこともできるものとされています。

もっとも、2つ目の方法をとる場合、当事者間の支払合意を確実に立証しなければならない点に注意が必要です。

婚姻費用や養育費に関する合意書を作成し、当事者双方の署名押印が取れている場合には、概ね問題ないでしょう。

一方で、口頭での合意にすぎない場合や、メールやLINEで金額のやりとりをしているような場合には、「本当に合意が成立したのか」が問題となってしまいます。仮に、合意の成立が認定できない場合には、地方(簡易)裁判所で婚姻費用や養育費の支払いを命じることはできません。地方(簡易)裁判所は、既に成立した合意に基づく支払命令を出す機関であり、当事者間の合意を形成するのは家庭裁判所の役割だからです。

このように、婚姻費用や養育費を取り決めどおりに払ってもらえない場合にも、様々なアプローチがあり、請求の時期や手持ちの証拠の内容に応じて適切な手段を選択する必要があることがわかります。婚姻費用や養育費の問題に悩んだら、まずは経験豊富な弁護士に相談されることをお勧めします。

(参考)
東京地裁H26.5.29判決(2014WLJPCA05298002)
東京地裁H29.7.10判決(判タ1452.206)